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こんにちは!うるま市にあります学習塾ベンガルです!
肌寒くなってきて読書の秋を感じさせます。きょうは最近読んだ近未来の地獄小説(?)をお送りします。
本書には2つの作品が収められていてそのうちの一つを紹介します。
本の帯より抜粋です。基本の設定やあらすじはこれでばっちりだと思います。
子供達を〈等質〉に教育する人気保育園に娘を通わせる推子は、身体に超小型電子機器をいくつも埋め込み、複数のコンテンツを同時に貪ることに至福を感じている。そんな価値観を拒絶し、オフライン志向にこだわるママ友・GJが子育てに悩む姿は、推子にとっては最高のエンターテインメントでもあった。
『推子のデフォルト』にはオフライン依存症という言葉がでてきます。
オフライン、つまりインターネットに接続していない状態に「依存」していること。これが「病気」として扱われています。
現在、インターネット依存症やゲーム依存症などがありますが、それとはあべこべにオフラインを求めることこそ病気と扱われてしまっています。
この設定がこの作品をますます面白くします。ありえない話をありえる話へと変え、読む者をその世界に誘います。
インターネットがない環境(オフライン状態)に依存し、悩まれる方の専門外来です。正しく治療し、インターネットと二十四時間繋がっていられる環境(オンライン状態)で生活できるように支援します。」
『あなたにオススメの』本谷有希子(講談社/2021)P13 病院の専門外来ページの文言
推子が子どもを通わせる保育園は徹底的に子どもを等質に育てています。
個性が出ないようにしています。
個性が出ると、周りから浮き上がってしまい、生きるのが苦しくなっていく。考えること、感じることを極力排除した空間の中でみんな同じように育てます。
歯磨き粉ひとつを買うにもすべて親が決めて、子どもに選択の余地を与えないことが良いこととされています。
「でも、好き嫌いの感覚は、シアワセフシアワセの基準を生むから取り除いていきましょうって、園から言われてるじゃないの」
同書P29 ママ友への推子のセリフ
そこに登場する子ども達の一人称は「オレラ」。
「おれ」「ぼく」でなく「オレラ」という複数形を使っています。
「おれ」「ぼく」「わたし」という個人(=個性)を指す言葉ですら使われなくなり、個性が消えかけた子どもたちは自他の区別ですら重要なものではなくなってしまっていることにじんわりとした恐怖を感じます。没個性の極みといえる現象です。
人間らしさへの脅威がそこにはあります。
スマートフォンやインターネットの登場、情報の氾濫。ここ十数年で人間を取り巻く環境は大きく変わりました。人類の長い歴史で見てもここまで大きく環境の変わった期間はないかもしれません。
環境が変わればそこに生きる人間も変わる。そうすれば人間らしさも変わるのも真っ当な流れです。
これまで住んでいた世界で信じられてきた人間らしさというものが変容していくさまはグロテスクでありながらも、妙にリアリティを感じさせます。
本書の設定はたしかにオーバーで大袈裟なものであはあるものの、それは現代社会の病理をうつしやすくした造影剤のようなものです。ばっちりその病魔がこの作品にうつってしまっているのです。
それにこぴくんママ、自分で前に言ってたじゃないの。このクソみたいな道具の普及で、私たちの生活の思考も、人間としてのあり方も全部変形させられたって。だったら、人間らしさだけが変わらないなんておかしいんじゃないの?
同書P67 ママ友への推子のセリフ
現代社会への壮大な皮肉のような作品でした…ε-(´∀`; )
これを皮肉と捉えること自体が作中に生きる推子たちからすればオフライン依存であり、かわいそうな人。
考え方が変わってしまった世界の中で、いまの人間らしさをどこまで保てるのか、保つのかは疑問です。
余計に生きづらくなってしまいますからね。
このような社会が欺瞞だ詐欺だ嘘だと思っていても、多くの人にとって生きやすくなってしまっている中では生き方にも変化が生まれていくのが至極当然。だからこそ怖い。
スマートデバイスが浸透し、人間らしさのデフォルト(標準)が変わってしまった世界を垣間見れる作品でした。
あの子を人間らしく育てることだけが正しいって信じてきたのに、 もし世の中に家畜しかいないなら、その中であの子だけ人間に育てることに何の意味があるの?
同書P66 ママ友のセリフ
また推子がすべてを「コンテンツ」と捉えるのも興味深いところ。
一緒に収められている『マイイベント』も災害を「イベント」として捉えています。
人間の悲喜交々を「コンテンツ」「イベント」として楽しむ姿は、一段上の高みから距離をもって眺める上から目線を感じさせ、現代人の冷酷さや薄情さを見せてくれています。作者らしいシニカルな視点を楽しめる良作でした(´∀`)
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